5年ぶりの気まぐれ

……によって、この場所の存在を思い出した。

どうやら当時の私は、ままならないお気持ちをポイ捨てして気が済んだらしい。電子の海では打ち捨てられた言葉がウミガメの鼻に刺さることもない。なんという気楽か。

 

人間はよく忘れる。そしてよく思い出す。

それらは自在なようでいてままならない。海に沈めた錨を引き上げるには鎖が必要で、その鎖を離してしまえば錨の回収は難しくなる。例えば錨がこのブログならば、鎖はURLでありユーザーIDでありパスワード。錨が5年前の私の記憶ならば、鎖のひとつはこのブログだろう。

電子の海では錨は劣化しない。海域ごと消滅することはままあるが。

記憶の海では錨は劣化する。現に私は今、5年前の自分の言葉を読み返して当時をほのかに思い出せはするが、この場所に逃げ込むに至った衝動は思い出せずにいる。

それでいいのだろう。私が衝動的に何かを始めるのは、なにかに嫌気がさした時か一人になりたい時が多い。記憶の鋭角が時間の波に揉まれたなら、当時の面影を偲んで怪我を増やす必要はないだろう。

爪の鋭さをいくらか失おうとも、錨は錨の役目を果たせるのだから。